チームや組織、ソフトウェア開発の問題について考えたり、それについて議論したりするとき、自分の体験や相手の体験を参考にすることが多い。参考というよりはベースと言った方が正しいかも知れない。そういう個人の体験を語るとき「n=1」という批判が飛び出すことが多々ある。つまり十分にデータがないのに正当性あるのか、単なる個人の感想ではないのかと問うてる(問われてる)わけである。
客観的、定量的に考えるべき問題があることは認めるが、その一方で定量的には考えることのできない問題もたくさんあるはず。量的に問題を考えることだけが正解ではないとは思うが、いまいちこの辺の心構えというかメンタルモデルが構築しきれていない。つまり個人的な体験や経験はどのように相対化して普遍的なプラクティスを取り出せばよいのかという話。
この課題を考えるに当たり質的研究の考え方―研究方法論からSCATによる分析まで―を読んで勉強した。特に(アカデミックな)研究をしたいわけではないが、質的研究の知恵を借りることで、量的にアプローチできない問題の分析やそこから導かれる結論の質を高められると考えられると考えたわけである。
ちなみに質的研究とは量的研究の対比で、量的研究が「対象を測定することで数量化されたデータを得、それを処理して結論を得る研究」に対して
- 仮説検証を目的としない
- 実験的研究状況を設定しない
- 観察やインタビューから主に言語的記録を作成する
- 記録に基づいて分析し理論化する
- 記録以外の資料も総合して研究する
- 研究者の主観・主体的解釈を積極的に活用する
- 研究対象を有する具体性や個別性や多様性を通してい一般性や普遍性に迫る
- 心理・社会・文化的な文脈を考慮しデータ採取とデータ分析をする
- そのようにして現象に内在・潜在する意味を見いだし研究参加者とともに人や社会の理解に努める
ような特徴をもつ研修手法である。
読んでみて、まだ消化しきれない部分はあるが、自分の中に一本筋を通すためのヒントが得られた気がする。
特に
- 質的研究の背景にある系譜やパラダイム
- サンプリングサイズと「理論的飽和」の解説から、さらになぜn=1でも研究が成立するのか
- 研究者の主観をどう扱えばよいか
- 概念的・理論的枠組みをどのように分析にりようすればよいか、複数の枠組みを同時に利用してよいのか
あたりは参考になった。
またこの本では質的研究は「人間に対する理解と共感の重要であり、研究を通して自己の理解と受容も必要になる社会的行為」であるといっている。この態度は、自分の所属する組織について考え、組織やひいては自分を成長させていく際に大切な心構えでもあると感じた。

- 作者:大谷 尚
- 発売日: 2019/04/10
- メディア: 単行本(ソフトカバー)

- 作者:アドリアン・フランク ファーンハム
- 発売日: 1992/06/01
- メディア: 単行本

- 作者:ジェリー・Z・ミュラー
- 発売日: 2019/05/10
- メディア: Kindle版
しろうと理論と測りすぎは以前に読んでいたが、質的研究の考え方を経てもう一度読みたくなった。
最近暇すぎて本読むかAPEXやるかしかない。実際本読んでるかAPEXやってるかなのだから暇ではないはずなのだが、強制的にやらされることの時間が減ると暇と認識してしまうらしい。どれだけ読書(仕事のため/自分のために関わらない)しても、他人から締め切り設定されたわけではなく自分の興味でやっている限り暇と感じてしまう。